探究学習への期待と現実のギャップ
「総合的な探究の時間」が本格実施されて数年が経過した今、この取り組みが生徒の進路選択にどのような影響を与えているのか。最新の調査データから、その実態が明らかになってきました。
『探究学習白書 2025』(一般社団法人 英語4技能・探究学習推進協会 著)の調査結果によると、約68%の高校生が探究学習を「進路選択に役立つ」と肯定的に評価している一方で、約29%の生徒は否定的な見方を示しています。一見すると多くの生徒が肯定的に捉えているように見えますが、この数字の裏側には、探究学習の質や指導方法によって大きく異なる生徒体験が隠されています。

質問:「総合的な探究の時間」は将来の進路選択に役立つと思いますか。
探究学習が進路に「役立つ」と感じる生徒たち
「とても役立つ」と回答した16.16%、「ある程度役立つ」と答えた51.52%の生徒たちは、探究活動を通じて何を得ているのでしょうか。
最も大きな効果は、自己理解の深まりです。従来の教科学習では触れることのできない多様なテーマに取り組むことで、自分の興味や関心を深く掘り下げる機会を得ています。例えば、地域の観光資源を調査した生徒が観光学への興味を抱いたり、福祉施設でのボランティア体験を通じて社会福祉分野への関心を持つケースが報告されています。
また、探究活動で培われる実践的なスキルの価値を実感している生徒も少なくありません。情報収集力、分析力、プレゼンテーション能力といった汎用的なスキルは、大学での学習や将来の職業生活に直結します。特に注目すべきは、大学入試における総合型選抜や学校推薦型選抜において、探究活動の成果を直接活用できる機会が増えていることです。この点を意識している生徒ほど、探究学習の価値を高く評価する傾向にあります。


なぜ3割の生徒は「役立たない」と感じるのか
一方で、「あまり役立たない」(19.70%)、「全く役立たない」(9.60%)と回答した約3割の生徒の声にも耳を傾ける必要があります。
最も大きな要因は、探究活動と具体的な進路選択との関連性を実感できていないことです。明確な進路目標を持っている生徒にとって、学校が設定した探究テーマが自分の志望分野と合致しない場合、その有用性を疑問視するのは当然の反応といえるでしょう。
また、大学受験を控えた生徒の中には、教科学習との優先順位の問題を感じている層も存在します。入試で直接問われる教科の学習時間を確保したい生徒にとって、探究活動は時間的な負担として捉えられることがあります。
さらに深刻なのは、探究活動の質のばらつきです。表面的な調査やインターネットからの情報の切り貼りで終わってしまったり、形式的な発表に終始したりする場合、生徒は探究活動の本質的な意義を理解できません。こうした経験をした生徒は、探究学習を「やらされている作業」として認識し、進路選択への効果を実感できなくなってしまいます。

探究学習の可能性を最大化するために
この調査結果は、探究学習が持つ可能性と同時に、その実施における課題を浮き彫りにしています。
今後、探究学習をより効果的なものにするためには、いくつかのポイントが考えられます。まず、生徒の興味・関心に基づいたテーマ設定の自由度を高めることです。一律のテーマではなく、個々の進路希望や関心に応じた柔軟な探究活動を認めることで、生徒の主体性とモチベーションを引き出すことができます。
次に、探究活動と教科学習の統合です。探究を別個の活動として捉えるのではなく、教科で学んだ知識やスキルを実際の課題解決に応用する場として位置づけることで、両者の相乗効果が期待できます。

そして何より重要なのは、質の高い指導と適切な評価です。表面的な活動に終わらせないために、教員側の探究学習に対する理解を深め、生徒一人ひとりに寄り添った指導ができる体制を整えることが求められます。
約7割の生徒が探究学習に前向きな評価をしているという事実は、この取り組みが大きな可能性を秘めていることを示しています。一方で、3割の生徒が否定的な見方をしている現実も直視し、改善に向けた継続的な努力が必要です。探究学習が真に生徒の進路選択と人生に役立つものとなるよう、学校現場での工夫と改善を重ねていくことが、これからの課題といえるでしょう。

高校の「総合的な探究の時間」の授業では、生徒が日常生活や社会に目を向けて、自ら課題を設定することから始まります。そして、情報の収集や情報の整理・分析を行い、研究結果をまとめて発表するところまでが1つの学習サイクルになります。1つの学習サイクルが終わった時には生徒自身の考え方がアップデートされ、1つ上のステージに立って再び探究学習が繰り返されます。
探究学習で大切なのは探究のプロセスです。探究のプロセスとは、(1)課題の設定、(2)情報の収集、(3)整理・分析、(4)まとめ・表現の4つを指します。
“高校の「総合的な探究の時間」で求められる生徒へのサポート” の続きを読む
新型コロナウイルス感染症拡大により、学校現場は臨時休業や時差登校、リモート授業などの対策を迫られ大きな影響を受けています。『探究学習白書2021』によれば、多くの高校が新型コロナウイルスによって「総合的な探究の時間」(総合的な学習の時間)の学習計画を変更したと回答しています。
新型コロナウイルス感染症拡大によって探究学習の授業はどのように変わっていったのでしょうか。
“「探究学習の授業」約8割の高校がコロナの影響を受ける” の続きを読む
前回は、高校探究学習科目の学習指導要領コードの1桁目から4桁目までを見てきました。今回は、5桁目から16桁目までをみていきましょう。
“高校探究学習科目の学習指導要領コードの見方(2)” の続きを読む
文部科学省は、教育ビッグデータの在り方について、収集するデータの種類や単位などを揃えることが必要不可欠であるとして「教育データの標準化」を進めています。学習指導要領についても取り組みが進められ、2020年10月に内容や単元等に共通のコードが付与されました。
学習指導要領のコードにはどのような意味があるのでしょうか。高校の探究学習科目を中心に、今回はコードの前半部分を見ていきます。
“高校探究学習科目の学習指導要領コードの見方(1)” の続きを読む
2020年10月、文部科学省は、教育データを効果的に利活用するための環境整備の一環として学習指導要領をコード化しました。学習指導要領のコード化とは、学習指導要領に書かれている1つ1つの項目にユニークな文字コードを付与することです。例えば、高校の総合的な探究の時間の「第1 目標」には「84M0100000000000」という16桁のコードが付与されました。
コード化することによって、学年間・教科等間を見渡したカリキュラム・マネジメントの推進やデジタルアーカイブと学習指導要領との紐づけ、教科書や副教材のデータベース化、参考書や指導資料のデータベース化などの効果が期待されます。
16桁のコードはどのような意味を持っているのでしょうか。「総合的な探究の時間」と「総合的な学習の時間」のコードはどのようになっているのか見てみましょう。
“学習指導要領のコード化とは? 「総合的な探究の時間」のコードは?” の続きを読む
学習指導要領の改訂により、2022年度から高校の「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に変わります。「探究」のキーワードは、日常生活において見たり聞いたりする機会はあまり多くありませ。しかし、2020年7月に藤井聡太七段(当時)が棋聖戦を制した時の記念色紙に書いたことから注目されました。コロナ禍がなければ、2020年流行語大賞の有力候補になっていたかもしれません。
探究学習科目の「総合的な探究の時間」は、英語や数学のように学年末テストは実施されないため、成績表に評価を記さない学校もありません。大学受験の科目として採用されていないこともあり、何のための学習なのか、目的がわからないまま授業に参加する生徒、教員も少なくありません。
探究学習科目の「総合的な探究の時間」はどのようにして生まれ、今に至っているのでしょうか。
“探究学習科目「総合的な探究の時間」はどのようにして生まれたのか” の続きを読む
2020年の新型コロナウィルス感染症拡大に伴い、2020年3月2日から春休みに入るまでの間、全国のすべての小学校、中学校、高等学校などが臨時休校になりました。その間に実施される入学試験や卒業式などは、感染防止のための措置や必要最小限の人数で行うことが求められました。また、企業や行政機関に対しては、児童・生徒の保護者が休みを取りやすいよう配慮することが求められました。
コロナ禍における生徒の学習形態はガラリと変わりました。オンライン授業を通した学習、Web教材やアプリを使った学習など、いわゆる「新しい学習様式」が導入されました。これを受けて文部科学省では、生徒が自宅で安心して活用できる教材や動画などを紹介する「子供の学び応援サイト」を開設しました。「総合的な学習の時間」「総合的な探究の時間」の科目についてもいくつかコンテンツが紹介されています。どのようなコンテンツがあるのか見ていきましょう。
“探究学習の新しい学習様式とは” の続きを読む
小学校の探究学習科目「総合的な学習の時間」の授業では、探究的な見方や考え方などをうまく働かせて横断的、かつ総合的な学習を行うとしています。また、課題を解決して、自己の生き方を考えていくための資質や能力を育成することを目指しています。
探究学習を進めるにあたっては、企業や団体と連携を図ったり、地域の教材や学習環境の積極的な活用などの工夫を行うことが学習指導要領により規定されています。企業や団体が提供する、小学校の探究学習におすすめのテーマを見ていきましょう。
“小学校の探究学習におすすめのテーマ” の続きを読む
高校の探究学習科目「総合的な探究の時間」では、探究的な学習を実現するために「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」のプロセスを辿ります。生徒への評価は、「まとめ・表現」で判断するのではなく、すべてのプロセスにおける学習活動への関心や意欲、態度などを総合的に判断します。
総合的な探究の時間の授業は、生徒一人ひとりの新しい一面が見られる機会でもあります。先生の生徒に対する見方も変わってくることでしょう。探究学習の指導を通して先生は何が変わったのでしょうか。
“探究学習の授業を通して高校教師は何が変わったか” の続きを読む