探究学習科目「総合的な探究の時間」はどのようにして生まれたのか

学習指導要領の改訂により、2022年度から高校の「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に変わります。「探究」のキーワードは、日常生活において見たり聞いたりする機会はあまり多くありませ。しかし、2020年7月に藤井聡太七段(当時)が棋聖戦を制した時の記念色紙に書いたことから注目されました。コロナ禍がなければ、2020年流行語大賞の有力候補になっていたかもしれません。

探究学習科目の「総合的な探究の時間」は、英語や数学のように学年末テストは実施されないため、成績表に評価を記さない学校もありません。大学受験の科目として採用されていないこともあり、何のための学習なのか、目的がわからないまま授業に参加する生徒、教員も少なくありません。

探究学習科目の「総合的な探究の時間」はどのようにして生まれ、今に至っているのでしょうか。

1995年 文部大臣が「21世紀を展望した我が国の教育の在り方」について諮問

1995年4月、与謝野馨・文部大臣(現在の文部科学大臣)は、中央教育審議会(中教審)に対し「21世紀を展望した我が国の教育の在り方」について諮問しました。諮問の理由の1つに、国際化社会、情報化社会、高度技術社会の中で21世紀に向けた教育の在り方について検討を行う必要があることを挙げています。

中教審は諮問を受けて検討を行い、翌1996年に第一次答申をとりまとめました。答申では、「これからの子どもたちに求める資質や能力は、変化の激しい社会を生きる力」であるとし、具体的には、次のような能力を育むことが重要であるとしました。

  • 自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力
  • 自らを律しつつ、他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力

この内容は、探究学習科目「総合的な探究の時間」の目標の土台になったといってもよいでしょう。

ちなみにここに出てきた「生きる力」は、これからの教育の新しいテーマとして今でも使われているキーワードです。

答申ではまた、「一定のまとまった時間を設けて横断的・総合的な指導を行う」ことも提言しています。この「一定のまとまった時間」とは「総合的な学習の時間」の授業を指しています。

【参照】高等学校学習指導要領「総合的な探究の時間」(2018年改訂)より

第1 目標
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。
(2)実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
(3)探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。

 

探究学習白書2020

1998年 教育課程審査会が「総合的な学習の時間」の創設を提唱

1998年、教育課程審査会は、教育課程の基準の改善として、「総合的な学習の時間」の創設を提唱しました。

「総合的な学習の時間」の創設の趣旨は、各学校が地域や学校の実態等に応じて創意工夫を生かして特色ある教育活動を展開できるような時間を確保することであるとしています。「総合的な学習の時間」の教育課程上の位置付けは、各学校において創意工夫を生かした学習活動であることを踏まえて、国が目標、内容等を示す各教科等と同様なものとして位置付けることは適当ではないとしています。

参照:「総合的な学習の時間」についての関係審議会答申(文部科学省)

1998年 小中学校学習指導要領を告示

1998年10月、小学校と中学校の学習指導要領が告示されました。2000年4月から実施可能で、2002年4月から全面実施されました。

「総合的な学習の時間」の学習活動を行うに当たっては、次の事項に配慮するものとするとしています。小学校は(1)~(3)、中学校は(1)~(2)です。

(1)自然体験やボランティア活動などの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など体験的な学習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること。
(2)グループ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態、地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制、地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。
(3)国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは、学校の実態等に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。

1999年 高等学校学習指導要領を告示

1999年11月、高等学校学習指導要領が告示されました。2000年4月から実施可能で、2003年4月から年次進行で実施されました。「総合的な学習の時間」の授業においては、各学校は、地域や学校、生徒の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとするとしています。

2003年 学習指導要領の一部を改正

2003年12月、小学校、中学校、高等学校の学習指導要領の一部が改正されました。「総合的な学習の時間」の授業については、一層の充実を図ることが盛り込まれました。具体的には、各教科で身に付けた知識や技能を相互に関連付けること、各学年で目標や内容の設定し、全体計画を作成すること、教師の適切な指導の必要性、および教育資源を活用することなど規定されました。

2008年 中教審が「学習指導要領等の改善」について答申

2008年1月、中教審は学習指導要領等の改善についての答申をとりまとめました。「総合的な学習の時間」については、学校教育全体で思考力や判断力、表現力等を育成するための各教科と総合的な学習の時間との適切な役割分担と連携が十分に図れていない点を指摘しています。また、「総合的な学習の時間」の導入により多くの必修教科の授業時数が減少したことも報告しています。

参照:幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)(文部科学省)

2008年、2009年 小中高等学校学習指導要領を告示

2008年3月、小学校と中学校の学習指導要領が告示されました。2009年4月から先行実施されました。翌年の2009年3月には、高等学校学習指導要領が告示されました。2010年4月から先行して実施されました。

「総合的な学習の時間」の授業の取扱いについては、次のような規定が追加されました。

総合的な学習の時間における学習活動により,特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施と同様の成果が期待できる場合においては,総合的な学習の時間における学習活動をもって相当する特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施に替えることができる。
参照:中学校学習指導要領「生きる力」(文部科学省)

 

上記は、横断的、かつ総合的な学習や探究的な学習が実施されていることが前提です。つまり、「総合的な学習の時間」の授業において体験活動を実施した結果、学校行事として同様の成果が期待できる場合に限って特別活動の学校行事を実施したと判断してもよいことを示しています。特別活動の学校行事を、総合的な学習の時間として流用してもよいというわけではありません。

2016年 中教審が「学習指導要領等の改善及び必要な方策等」について答申

2016年12月、中教審は「学習指導要領等の改善及び必要な方策等」について答申をとりまとめました。「総合的な学習の時間」についての答申内容は次の通りです。

    • 総合的な学習の時間の目標は、各学校の学校教育目標を踏まえて設定することとするなど、目標や内容の設定についての考え方を示す。

    • 総合的な学習の時間を通して育成する資質・能力について、探究のプロセスを通じて働く学習方法(思考スキル)に関する資質・能力を例示するなどの示し方の工夫を行う。

    • 高等学校の総合的な学習の時間を、小・中学校の成果を踏まえつつ、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、生涯にわたって探究する能力を育むための総仕上げとして位置付ける。名称を「総合的な探究の時間」とし、主体的に探究することを支援する教材の導入も検討する。

参照:幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)(文部科学省)

2017年、2018年 小中高等学校学習指導要領を告示

2017年3月、小学校と中学校の学習指導要領が告示されました。2018年4月から先行実施されました。2018年3月には、高等学校学習指導要領が告示されました。2019年4月から先行して実施されました。

今回の学習指導要領では、社会に開かれた教育課程を実現することや、知識の理解の質を高めて確かな学力を育成すること、道徳教育の充実や体験活動を重視し豊かな心や健やかな体を育成することなどを目標に置いています。

「総合的な学習の時間」の授業は、高等学校においては「総合的な探究の時間」に名前が変更されました。また、「古典探究」「日本史探究」「世界史探究」「地理探究」「理数探究」「理数探究基礎」などの探究学習の科目も新設されました。

探究学習白書2020